「ゴブリンモード(goblin mode)」とは?意味・由来(オックスフォード2022年の言葉)を解説
風呂は明日でいい。スウェットのまま、ポテチの袋を抱えて布団の上でショート動画。人からどう見えるかを一切気にせず、だらしなさを開き直った状態を指すのが 「ゴブリンモード(goblin mode)」 です。
「ゴブリンモード」とは?
オックスフォード大学出版局(OUP)の定義はこうです。悪びれることなく自分本位で、怠惰で、だらしなく、あるいは欲張りな振る舞い。しかも典型的には、社会規範や周りからの期待をはねのける形でそうする、と続きます。
肝は「悪びれない」のところです。ただダラけているだけならゴブリンモードとは言いません。「今日はこれでいい」と開き直って、片付けもせず、人の目に合わせるのをやめている。その開き直りの部分が言葉の中身になっています。ゴブリンは洞窟の暗がりに住んで、散らかして、欲しいものを溜め込む妖精のイメージなので、そこに引っかけた比喩です。
英語では「go goblin mode」「in goblin mode」と、状態に出入りする形で使われます。性格ではなくモードなので、明日はちゃんとする前提が入っている。ここが「ぐうたら」や「自堕落」と違うところで、自分から名乗れる、むしろちょっと誇らしげに言える言葉になっています。
得票率の偏り方が異常で、次点の metaverse に20倍以上の差をつけています。一般投票をやったのはこの年が初めてで、その一発目がこの結果でした。ここからリズ、ブレインロット、レイジベイトと続く受賞語の並びを見ると、ネットの空気を言語化した言葉が毎年そのまま辞書に拾われているのが分かります。その最初の一手がゴブリンモードでした。
元ネタ・由来
いちばん古い記録は2022年よりずっと前で、2009年のTwitterでの使用とされています。Know Your Meme は2009年2月10日のユーザー投稿「m was in full hyperactive goblin mode last night…」を初出として挙げていて、OUPも「first recorded use: 2009 on Twitter」と説明しています。ただしその投稿が今も残っているかまでは確認できないので、あくまで最初期の記録とされる、という言い方が正確です。
そこから10年以上、ごく一部で使われる言い回しのままでした。跳ねたのは2022年2月15日で、きっかけはあるメディアの見出しを加工した画像です。俳優のジュリア・フォックスが「カニエ・ウェストは私がゴブリンモードになるのを嫌がった」と語った、という体の見出しが作られ、Twitterで一気に拡散しました。
この見出しは完全な捏造でした。2月19日、ジュリア・フォックス本人がInstagramのストーリーで「はっきりさせておくと、私はゴブリンモードという言葉を一度も使ったことがない」と明確に否定しています。ところが言葉のほうは走り出していて、この時期に goblin mode の検索数が急増。6月には Dictionary.com が項目として収録し、12月5日にオックスフォードの今年の言葉に選ばれました。
なぜ2022年に刺さったのか
タイミングの説明としてよく挙げられるのが、コロナ禍のロックダウン明けです。家で好き放題に過ごしていた生活から「元のちゃんとした自分」に戻れと言われて、いや無理だろ、という反動が広い範囲で起きていた時期でした。
もうひとつがSNS疲れです。丁寧な暮らし、整った部屋、朝5時起き。ずっとそういう投稿を浴びせられ続けた後だったので、その真逆を宣言する言葉が気持ちよかった、という説明になっています。実際、演出していない生活のほうが受ける流れは日本のXでも起きていて、飾らずに上げた一人暮らしの部屋の写真に「麻辣湯部屋」というあだ名が付き、名付けた引用のほうが元投稿の6倍のいいねを集めたことがあります。きれいに作り込んだ部屋より、生活感がにじんだ部屋のほうが伸びる。
ゴブリンモード中の過ごし方は、だいたいブレインロットと地続きになります。ショート動画を延々スクロールして時間が溶けるやつです。日本でも倍速や切り抜き動画に付く「ドパガキ用」というラベルにツッコミが飛んで約7万いいねを集めたことがあって、ドーパミン目当てのだらだら消費に名前を付けたがるのは、どの言語圏でも同じらしい。
言葉としての位置づけがはっきりするのは、逆側に並べたときです。glow up(垢抜け)やルックスマクシングは、自分を磨いて見た目を上げていく方向の言葉。ゴブリンモードはその真逆で、磨くのをやめる宣言です。両方とも同じ数年間に若者言葉として広がっているのが面白いところで、上げ続けろという圧と、もう無理という降参が、同じタイムラインに並んでいます。
使い方・例文
自分に対して使うのが基本です。人に向けて「お前ゴブリンモードだな」と言うと、ただの悪口になります。
- 「今週バイト詰めすぎたから、日曜は一日ゴブリンモードでいく」
- 「部屋の惨状は見せられない。完全にゴブリンモード入ってた」
- 「三連休、ゴブリンモードのまま終わった。外出てない」
- 「テスト明けはゴブリンモードに入る権利がある」
英語では動詞的に「go goblin mode」、状態として「in goblin mode」。日本語圏ではカタカナの「ゴブリンモード」表記で、まだ英語圏ほど日常的には使われていません。近い日本語を探すなら「自堕落」ですが、あちらは責める語感が強くて自分から名乗りにくい。ゴブリンモードは自分で名乗れる、が使い分けの目安になります。
なお、うっかり寝過ごして予定を飛ばすほうは絶起です。ゴブリンモードは自分で選んで崩しているので、事故ではありません。
関連する言葉
同じオックスフォードの今年の言葉として並ぶのがリズ(2023年)、ブレインロット(2024年)、レイジベイト(2025年)。ここ数年の受賞語をまとめて追うと、ネットの言葉が辞書に取り込まれていく速度がよく分かります。
自己改善の側にあるglow upやルックスマクシングは、ゴブリンモードのちょうど反対側に置ける言葉。同じ英語圏のZ世代スラングとしては、思い込みで突っ走るデルルや、力を抜いた佇まいで格を出すオーラファーミングあたりも一緒に押さえておくと、英語圏のタイムラインがだいぶ読めるようになります。