「クラゲは魚に食べられない」は間違いだった?えのすい飼育員がクラゲの寄生虫3種に新和名、正体は“シイラ”への片道切符
水槽の中をふわふわ、ゆらゆらと漂うクラゲ。見ているだけで癒やされる存在ですが、じつはそのクラゲに “寄生虫が下宿している” ことがあるのをご存じでしょうか。新江ノ島水族館(えのすい)の飼育員らが、クラゲに寄生する生きものたちを調べ、そのうち3種に新しい和名をつけて発表しました。名前もインパクト大なら、そこから見えてくる話も、なかなかの“へぇ”です。
クラゲ8種を調べたら、7種から寄生虫
えのすいのトリーター日誌によると、この研究は同館の飼育員(トリーター)が東邦大学などと共同で行ったもので、寄生虫の学術誌『Journal of Helminthology』に論文として掲載されました。飼育のプロが、日々向き合う生きものの体を調べて論文にまで仕上げてしまう。そのこと自体がまず面白いところです。
調べたのは、カツオノエボシやウラシマクラゲ、ギンカクラゲなど クラゲの仲間8種。すると、ギンカクラゲを除く 7種から寄生虫が見つかりました。これほど幅広い種類のクラゲから検出されたことは、クラゲが寄生虫にとってごくありふれた“宿主”であることを示している、と指摘されています。ふわふわ漂うだけに見えて、じつは小さな下宿人を何匹も抱えていた、というわけです。
新和名に「マヒマヒ」。その正体はシイラ
見つかった寄生虫のうち、3種に新しい和名がつきました。声に出して読みたくなるラインナップです。
- クラゲビードロキュウチュウ(学名 Tetrochetus coryphaenae)……カツオノエボシなどから見つかった、名前に「クラゲ」を冠した唯一の寄生虫。
- マヒマヒキュウチュウ(学名 Dinurus tornatus)……「マヒマヒ」はハワイ語で魚の シイラ を指す言葉。つい口に出したくなる、かわいい響きです。
- ヒゲアリマヒマヒキュウチュウ(学名 Dinurus barbatus)……こちらも「マヒマヒ」の名を持つ一種。
「キュウチュウ(吸虫)」は、体の吸盤で宿主に取りつくタイプの寄生虫の仲間。なぜ寄生虫の名前に、魚のシイラを意味する「マヒマヒ」が入っているのか。じつはここに、今回のいちばんの“へぇ”が隠れています。
タネ明かし:クラゲは“シイラへの乗り換え駅”だった
これらの吸虫にとって、クラゲはゴールではなく 途中の乗り換え駅。最終的にたどり着きたい“終宿主”は、シイラ(マヒマヒ)などの大型魚です。寄生虫はまずクラゲの体に潜み、そのクラゲがシイラに食べられることで魚の体内へと引っ越し、そこで大人になる。そんな生活サイクルを送っています。
ここで思い出したいのが、「クラゲは、あまり魚に食べられない」という長年のイメージ。栄養が少なく、刺す種類も多いクラゲは、魚のエサとしては割に合わない、と考えられてきました。ところが、クラゲに寄生した虫が“シイラの体内”から見つかるという事実は、その常識をひっくり返します。虫がクラゲからシイラへ引っ越せているということは、実際にシイラがクラゲを食べている何よりの証拠だからです。寄生虫の暮らしぶりが、目には見えにくい食物連鎖を逆側から証明してみせた、というわけです。
さらにこの研究では、かつてクラゲから採集されたまま正体不明だった“謎の標本”が、DNAを比べることでシイラから見つかる成虫と同じ種だと判明した、という一幕も。「食う・食われる」だけでなく「寄生する・される」の関係もまた、生態系を複雑に、そして豊かにつないでいることがうかがえます。
標本は水族館で見られるように
これらの成果は、今後えのすいの「クラゲサイエンス」の標本コーナーで展示される予定とのこと。次にクラゲの水槽の前に立ったら、「この子にも下宿人がいるのかも」「この寄生虫は、いつかシイラを目指しているのかも」。そんな目線で眺めてみると、いつものクラゲが少し違って見えてくるかもしれません。
ゆらゆら漂うだけに見える生きものにも、名前のついた物語と、海の食物連鎖の秘密が詰まっている。飼育のプロが地道に積み重ねた研究が教えてくれる、静かな“へぇ”でした。
※研究内容・和名・学名はえのすいトリーター日誌および掲載論文の発表にもとづく情報です。詳細は公式ページをご確認ください。