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犬の人なつこさに関わる遺伝子GTF2I、ヒトのウィリアムズ・ボイレン症候群と同じ領域 オオカミとの比較はイヌ18頭

2026年9月5日 ・ トレンド「犬 仲良くする 遺伝子 社交性 ウィリアムズ・ボイレン症候群 GTF2I GTF2IRD1 オオカミ 家畜化 研究」より

「本当か知らんけど」で始まる投稿が、まる1日で8万8千いいねを超えました。犬について聞いた説明を思い出しているうちに泣けてきた、という短いポストです。

前置きが前置きなので、そこは調べました。先に結論を書くと、この話の芯になっている研究は実在します。ただし「もう判明している」という言い方が合っているかというと、それはまた別です。

元になっているのは2017年のScience Advances論文

投稿に出てくる3つの説明のうち、最初の2つには対応する研究があります。プリンストン大学のBridgett M. vonHoldt氏らが2017年7月19日にScience Advancesで発表した論文で、タイトルは “Structural variants in genes associated with human Williams-Beuren syndrome underlie stereotypical hypersociability in domestic dogs”。ヒトのウィリアムズ・ボイレン症候群に関わる遺伝子の構造変異が、イエイヌの極端な人なつこさの土台になっている、という内容です。

出発点は、先行研究でイヌとオオカミのゲノムを比べたときに差が大きかった座位です。1位は毛や目の色に関わるSLC24A4でしたが、2位に来たのがWBSCR17という遺伝子でした。この遺伝子は、名前のとおりヒトのウィリアムズ・ボイレン症候群に関わるとされている遺伝子です。それなら周辺ごと詳しく読んでみよう、というのが今回の研究の入り口です。

チームはイヌ16頭とオオカミ8頭でこの領域を読み直し、GTF2IとGTF2IRD1に入っている構造変異が、人へ近づこうとする行動の強さと対応していることを示しました。論文の考察では、この2つの遺伝子の構造変異がイヌの極端な社交性に寄与しているという証拠を示した、と書いています。人への近づきやすさといちばん強く結びついていた変異は、SINEとLINEという、ゲノムの中を動き回るタイプの配列が挿入されたものでした。

パズルを開けるのはオオカミ、人のほうを見るのがイヌ

行動のほうにも数字があります。使われたのはフタつきの箱で、中にサマーソーセージが半分だけ入っている。2分以内に自力で開けられるかを見る課題です。

人がそばにいる条件で成功したのは、イヌ18頭のうち2頭、オオカミ10頭のうち8頭。人がいない条件でもイヌは2頭のままで、オオカミは9頭でした。オオカミは箱に集中して開けにいくのに、イヌは人がいてもいなくても、あまり開けません。

もうひとつは人へ近づこうとする行動を測る試験です。見知らぬ人と親しい人でそれぞれ2回ずつ、合計4フェーズを8分続けて実施し、イヌはオオカミより強く人のほうへ寄っていきました。

論文はこの組み合わせ、つまり人への強い関心と、単独で問題を解く力の弱さがセットで出ることを、ヒトのウィリアムズ・ボイレン症候群で報告されているパターンと重なると整理しています。人がそばにいる条件で箱を見ていた時間の中央値は、イヌが10%でオオカミは100%。逆に人のほうを見ていた時間はイヌが21%で、オオカミは0%でした。ただしイヌは人がいない条件でも開けていないので、その場で気が散ったから、という話でもありません。論文はこれを、注意が人の側に寄っていて自力で解きにいかない性質、という形でまとめています。

「判明している」と言い切るには頭数が小さい

ここが今回いちばん書いておきたいところです。行動試験に参加したのはイヌ18頭とオオカミ10頭、遺伝子を読み直したのはイヌ16頭とオオカミ8頭。学校のクラス1つにも届かない規模です。

論文自身も「証拠を示す(provide evidence)」という書き方で、決着したとは書いていません。犬の性格には他の遺伝子も育った環境も効くので、GTF2Iひとつで説明が付く話でもない。それでもこの論文は発表から引用され続けていて、AFPの記事では、この変異がイヌとオオカミを分けた家畜化の主要因とみられる、という扱いで紹介されました。ナショナル ジオグラフィック日本版も同じ研究を取り上げています。

芯が怪しいわけではありません。ただ、言い方としては「判明している」ではなく「そういう研究がある」が正確なところです。

3つ目の説明だけは、論文に見当たらない

投稿の3つ目、「仲よくすることに特別な理由なんかいらない、そう思うのが犬」。この表現に対応する記述は、論文を読んでも見つけられませんでした。

研究が測っているのは、人にどれだけ近づくか、単独で課題をどれだけ解けるか、という行動の量です。理由がいるかいらないかは測定の対象になりません。ここは投稿者が聞いた説明のほうの言い回しだと思われます。いちばん泣ける部分が、いちばん数字にできない部分だったわけです。

人間の体質のほうでも似た温度の話があって、以前筋肉がつきやすいネアンデルタール由来の遺伝子について書きました。あれも効果は体重にして平均285gで、遺伝子で全部が決まるわけではないという話でした。どこまでが遺伝子の取り分なのかは、犬でも人でも慎重に扱われています。

いいね8万8千に対して、リプライは67件

この投稿、いいねは8万8千を超えているのにリプライは67件でした。言い返したくなるタイプではなく、黙って押して次に流すタイプのポストだったことになります。陽キャすぎる、光の生き物、という言い方の短さも、そのまま友達に投げられる形をしています。

18頭ぶんの話だと分かったうえで読んでも、家にいる犬や、散歩で会う犬の見え方は少し変わると思います。人なつこさの実物を見たい人には、「咬みます」の看板の下にいた人懐っこい柴犬の話もどうぞ。

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