「私が町長です」とは?ロマサガ3キドラントの町長の元ネタ、なぜ殴れないのか
さんざん人をひどい目に遭わせた張本人が、ケロッとした顔で名乗りだけ返してくる。「私が町長です」は、30年以上前のRPGから生まれて、いまだに現役で使われているセリフミームです。
「私が町長です」とは?
悪事を働いた本人が、報いも謝罪もないまま「何も無かった」としらばっくれる様子を指す言葉です。何かやらかした相手が反省ゼロで日常に戻っているとき、その態度を「私が町長です」と呼ぶ。ニコニコ大百科にも2009年6月に単独項目が立っていて、ネットミームとしての歴史はそこそこ長いほうです。
ポイントは、元ネタのほうで町長がいっさい罰を受けないところ。悪い奴がきっちり痛い目を見るざまぁ展開の、正反対の後味だと思ってもらえればだいたい合っています。
元ネタ・由来、1995年のキドラントで起きたこと
出どころは、1995年11月11日にスクウェアから発売されたスーパーファミコン用RPG『ロマンシング サ・ガ3』です。出荷は130万本を超えた、シリーズでも有数のヒット作でした。
問題の男が出てくるのは、序盤に立ち寄る町キドラント。町長は主人公たちに「町のそばに住みついた怪物にいけにえをささげねばならんのです」と事情を説明し、「お礼は十分にさせていただきます」と怪物退治を頼んできます。ここまでは普通のクエストです。
ところが洞窟「いけにえの穴」に入ったところで扉を閉められる。最初からプレイヤー一行をいけにえにするつもりだったわけです。抗議しても、町のためだ、がんばってくれ、で押し切られる。
助けてくれたのは、たまたま通りかかった町の娘ニーナでした。で、礼を言って町長のところへ文句を言いに戻ると、そのニーナが次のいけにえとして穴に投げ込まれている。恩人を差し出されているのだから、プレイヤーの怒りはここで最高潮になります。
もう一度穴に潜り、ねずみの群れにまぎれているボス、アルジャーノンを倒し、ニーナも無事に救い出す。すべて片づけて、さすがに今度こそ落とし前をつけさせようと町長に話しかけると、返ってくるのがこれです。
「私が町長です」以降、何度話しかけても同じ。謝罪も報酬も説明もなく、町長は名乗るだけの人になる。これでイベントは終了です。ねとらぼも2017年の記事でこの一連を取り上げていて、あまりの尻切れトンボぶりに、容量か納期の関係でカットされたのではという見方も紹介していました。
バグでも容量不足でもなかった
長いこと、この終わり方には「作りかけ説」がつきまとっていました。決着を書く余裕がなかっただけだろう、と。
それを本人が否定しています。電撃オンラインが2015年に掲載した河津秋敏のインタビューで、町長にその後の設定はあるのかと聞かれた河津は「ないです。彼の仕事はあそこで終わり(笑)」と答え、決まりきった台詞しか言わなくなるのはイベント終了のサインだと説明しています。そのうえでこうも言っていました。
「普通は、町長にお金をくれって話しかけに行きますよね。(中略)でも、あの場面はこう言ってシラをきるしかないんですよ、町長の立場だと(笑)」
つまり仕様です。容量が足りなかったのでもバグでもなく、町長は立場上しらばっくれるしかない、という設計だった。これがはっきりしたことで、かえってネタとして固まりました。救われないことが公式に確定した悪役、という珍しい立ち位置です。
公式のほうが乗っかってきた
面白いのは、スクウェア・エニックス側がこのネタを何度も拾っていることです。
2017年3月にリメーク企画が発表されたときは、ねとらぼが「『ついに町長しばけるのか!?』」という見出しで記事にしています。新作の情報が出たのに、原作プレイヤーの関心がグラフィックでもボリュームでもなく町長に向かっていた、という記録です。
2019年9月の東京ゲームショウでは、公式Twitterで募った『ロマサガ3』の思い出のシーンで「私が町長です」が第1位になりました。ファミ通のステージレポートによると、登壇した河津はリマスター版ではこれ以外の展開もあるかもしれない、と含みを持たせています。
そして同年11月11日に配信が始まったHDリマスター版では、町長イベントに続きが足されました。「報酬をよこせ」と「一発なぐらせろ」を選べるようになったのです。ただし「一発なぐらせろ」を選ぶと町長は逃げてしまって、結局殴れない。「報酬をよこせ」のほうは所持金が上限の10000オーラムまで増えるかわりに、以降のセリフが「私が町長です。フッ」に変わります。増えたのは選択肢だけで、溜飲は1ミリも下がらない。
シリーズの他作品にも飛び火しています。『サガ スカーレット グレイス 緋色の野望』には、ネクワの町長がボイス付きで「私が町長です。」と名乗る仲間キャラとして登場する。こちらはロマサガ3の町長とは別人で、ちゃんと善良な人物です。『ロマンシング サガ リ・ユニバース』でも記念配布としてSSスタイル「キドラントの町長(かわいいネズミだ)」が実装され、アビリティ名が「失礼超人」、技が挑発の「町長の舞」、瀕死になると土下座のグラフィックになる、という徹底ぶりでした。
使い方・例文
ネタの元が「悪びれない」ことなので、責任をうやむやにする相手や、自分のとぼけっぷりを自虐するときに使います。
- 「後輩に全部押しつけた先輩、今日も普通に出社してる。私が町長です」
- 「不具合の説明会、質疑で何を聞いても私が町長ですで返された」
- 「割り勘のとき財布を忘れたフリをするやつ、キドラントの町長ムーブすぎる」
- 「みんなに謝れって言われたけど、私が町長です」
「町長」だけで通じる場面も多く、悪びれない態度そのものを指して「町長ムーブ」と呼ぶ使い方も見かけます。
31年後、フルリメイクでも殴れなかった
2026年9月11日、フルリメイク『ロマンシング サガ3 デスティニーユナイテッド』の発売決定を記念した公式生放送が配信されました。
新システムや追加イベントの話が並んだあと、事前にXで募集した質問にプロデューサーの田付信一が答えるQ&Aコーナーがありました。コマンダーモードや王家の指輪といった仕様の質問に混じって読み上げられたのがこれです。「町長は殴れますか?」。1995年のモブおじさんが、31年後の発表会でも質問票に載っていたわけです。
ファミ通のQ&Aまとめによると、回答は「殴れはしないが、もうひとつ仕掛けを用意している」でした。それが2019年のリマスター版で足された選択肢や「フッ」と関係あるのかどうかも明かされていません。期待していいのかどうかすら分からない状態ですが、少なくとも公式は殴れないと言っています。詳しい流れはロマサガ3リメイクの生放送をまとめた記事にも書きました。発売は2027年2月16日(Steam版のみ2月17日)で、公式サイトで機種や続報を確認できます。
31年前に子どもだった人がとっくに大人になっても、まだ「殴らせろ」と言い続けている。ミームとしての寿命がこれだけ長いのは、たぶん恨みが晴れていないからです。
関連する言葉
悪事の報いがきっちり返ってくるざまぁとは、後味が正反対の関係にあります。町長の場合は返ってこないので、31年待たされているわけです。名前も設定もほぼ与えられていないモブだったはずのおじさんが、作品でいちばん有名なキャラになってしまったという点でも珍しい例になります。
作品の一言がセリフ単体で独り歩きしたという意味では、計画通りやだが断ると同じ型です。ただしあちらが決め台詞としてカッコよく使われるのに対して、「私が町長です」は言われた側の理不尽さごと共有されている、というところに違いがあります。