120歳の祝い「大還暦」は日本生まれの造語、ギネス公認の達成者は世界で1人
60歳の還暦はよく聞きます。では、その倍の120歳に名前が付いているのはご存じでしょうか。大還暦(だいかんれき)といいます。干支が2周するという意味で、字面だけ見ると平安時代あたりから使われていそうな重厚さがあります。ところが調べてみると、この言葉が生まれたのは昭和の終わりで、名付けたのは鹿児島県のある町の関係者でした。
還暦が2周まわって120歳
そもそも還暦は暦の話です。Wikipediaの「大還暦」にはこう書かれています。
十干と十二支とを組み合わせた干支による暦は、60年で一周する。これを還暦(かんれき)という。大還暦はそれが二周することを意味する。
甲・乙・丙といった十干が10種類、子・丑・寅の十二支が12種類。この組み合わせが一巡するのに10と12の最小公倍数で60年かかります。生まれた年と同じ干支に戻ってくるのが60歳で、これが還暦です。大還暦はそれをもう一周やるということなので、単純に120歳。
還暦の上に古希(70歳)や米寿(88歳)が並んでいるのは知られていますが、その列の一番端に、めったに使われないまま120歳の欄が用意されている形になります。
名前を作ったのは鹿児島県伊仙町の関係者
ここが面白いところで、大還暦は暦の理屈から自動的に導かれた古い言葉ではありません。Wikipediaの定義部はこう説明しています。
大還暦(だいかんれき)とは、人間の年齢が120歳を迎えることである。120歳で死去したとされていた泉重千代が満120歳を迎えた時に鹿児島県伊仙町の関係者がこの名称を作ったとされている。
伊仙町は鹿児島県の徳之島にある町です。泉重千代さんは1986年2月に亡くなり、死亡時の年齢は120歳185日とされました。この記録は、その後2010年までギネス世界記録に公認されていました。
つまり順番が逆なんです。名前が先にあって誰かがそこに到達したのではなく、到達してしまった人が現れたので、祝う言葉のほうを新しく作った。米寿や白寿のように何百年も語り継がれてきた語の隣に、昭和生まれの造語が1つだけ混ざっている、というのが大還暦の正体でした。
なお泉さんの記録については後に検証が進み、『ギネス世界記録2012年』では、これまでに最も長生きした男性として115歳252日で亡くなったアメリカのクリスチャン・モーテンセンさんが取り上げられています。120歳とされた記録は、ギネスの公認からは外れました。
ギネス公認の達成者は、世界でただ1人
では実際に大還暦に届いた人は何人いるのか。答えは1人です。同じくWikipediaの記述を、条件のところごと引きます。
戸籍や教会記録など信頼される記録が残っているもので、ギネス世界記録に公認された事例(これはアメリカの老人学研究団体ジェロントロジー・リサーチ・グループの認定に依拠している)に限定すれば、1995年のジャンヌ・カルマン(フランス人・1875年2月21日 - 1997年8月4日、122歳164日)のみが達成している(ただし近年では異説あり。詳細は当該項目参照)。
ギネス世界記録の「Oldest person ever」のページでも、記録は現在もカルマンさんの122歳164日です。フランス南部アルルの介護施設で1997年に亡くなりました。130歳や200歳を主張する事例は世界に複数あるものの、120年以上前の出生記録や戸籍の裏付けが取れず、ギネスの公認には至っていません。
日本人で一番長く生きたとされるのは田中カ子さんで、公式の記録は1903年1月2日から2022年4月19日、119歳107日です。カルマンさんに次いで史上2番目という数字ですが、それでも大還暦までは1年足りていません。この最後の1年を越えられたのは、いまのところ世界でカルマンさんだけです。
別名は「昔寿」、「昔」を分解すると120になる
120歳には昔寿(せきじゅ)という別名もあります。Wikipediaの「長寿」でも、120歳の欄には大還暦と昔寿の2つが並んでいます。由来として長寿祝いの解説サイトが挙げているのが、漢字の分解です。「昔」という字を上下に割ると、上が廿(にじゅう、20を表す字)で、下が百。足して120になる、という理屈です。
この字遊びは120歳だけの発明ではありません。108歳の茶寿は「茶」の草冠が廿(20)で、下の部分が八十八に見えるから20+88で108。111歳の皇寿は「皇」を白(99を表す白寿の白)と一・十・一に分けて99+1+10+1で111。並べてみると、昔の人がとんちで年齢に名前を付けていったのがよく分かります。ただし昔寿の由来については公的な出典が見当たらず、解説サイトの記述が中心なので、そういう説がある、くらいに受け取っておくのが無難です。
人間の120歳がどれだけ遠いかは、生き物のほうと比べるとよく分かります。北米の湖にはメスで最長427年生きると推定されたミズウミチョウザメがいますし、深海のニシオンデンザメは推定約400歳。魚が平気で数百年やっている横で、人類の公認記録は122歳で止まっています。
ちなみに2026年に満120歳を迎えるのは、1906年(明治39年)生まれの人です。夏目漱石が『坊っちゃん』を出した年に生まれ、いま大還暦を迎えている人がどこかにいるかもしれない、と考えるとなかなかの距離感があります。敬老の日に祖父母の生まれ年を聞く機会があったら、還暦から何周ぶん進んでいるか数えてみてください。