不二製油と岩手大学が大豆由来「MAM」の研究発表、猫7頭で血中クレアチニン値が低下
猫を飼っている人がいちばん怖がる病名は、たぶん腎臓病だ。年をとった猫の定期健診でクレアチニンの数値がちょっと高いと言われた瞬間の胃の落ち方は、経験した人ならわかると思う。
その腎臓に、まったく別の場所から手を伸ばそうとしている研究が2026年9月3日に発表された。不二製油と岩手大学の共同研究で、使ったのは薬でもサプリでもなく、大豆のうち「消化されずに大腸まで届いてしまう部分」だ。
猫7頭に30日間、全頭で血中クレアチニン値が下がった
発表したのは不二製油株式会社と国立大学法人岩手大学。試験の中身はかなりはっきり書かれていて、対象は臨床上健常な猫2頭と、慢性腎臓病(CKD)ステージ2の猫5頭の合わせて7頭。この7頭にMAMと市販のペットフードを30日間与えて、血液検査と尿検査、それに糞便分析をおこなっている。臨床試験を担当したのが岩手大学で、MAMの製造と試験用フードの提供が不二製油という役割分担だ。
結果として並んでいるのは5つ。全頭で血中クレアチニン値が低下、慢性腎臓病の猫3頭で病期(病気の進行に応じて区分した段階のこと)の改善、糞便中の腐敗産物の減少、血中尿毒素の低下、そして便臭の改善。クレアチニンは筋肉で作られて腎臓から尿に捨てられる老廃物で、腎臓のろ過が落ちると血の中に溜まる。だから血中の値が下がるというのは、指標の上では良い向きに動いたということになる。
不二製油はこの結果を「猫の腸内環境改善と腎機能維持への有用性を示す結果が得られました」とまとめている。そのうえで「本研究は、MAMが腸内環境の改善を介して、猫の腎機能の健康維持に寄与する可能性を示した初めての報告です」としている。可能性を示した初めての報告、という言い方をそのまま受け取るのが正しい距離感だと思う。
腎臓の話なのに、効かせているのは腸のほう
ここが今回いちばん面白いところで、MAMは腎臓に直接なにかをしているわけではない。狙っているのは腸だ。
リリースの研究背景にはこう書かれている。「腸内で発生する腐敗産物が体内に吸収されると、肝臓で尿毒素に変換され、血中尿毒素の増加につながることがあります。これにより腎臓への負担が高まる可能性があるため、腸内環境を整えることが腎臓の健康維持にも関係すると考えられています」。腸で悪いものが出る、それが吸収されて肝臓で尿毒素になる、その尿毒素の後始末をするのが腎臓、という順番だ。上流の腸で発生量を減らせば、下流の腎臓の仕事が減る。
便臭の改善が結果に入っているのも、そう考えると納得がいく。腐敗産物が減ればニオイも減る。トイレ掃除のたびに現実を突きつけられる飼い主にとっては、こっちのほうが体感しやすい変化かもしれない。
MAMは大豆のうち「消化されずに大腸まで届く部分」
MAMは Microbiota Accessible Macropeptide の略で、日本語では難消化性大豆たん白。不二製油の説明では「MAMは、大豆たん白由来の難消化性成分で、大腸まで到達し、腸内環境に作用することが期待される素材です」となっている。
たんぱく質は普通、胃と小腸で分解されて吸収される。栄養として見るなら、消化されない部分は言ってしまえば取りこぼしだ。ところが腸内細菌の側から見ると、小腸で吸収されずに大腸まで残ってくれる成分こそが餌になる。名前に入っている Microbiota Accessible が、そのまま「腸内細菌がアクセスできる」という意味になっている。食物繊維が体に良いと言われる理屈と近い場所にいる素材だと思ってもらえばいい。
背景として、不二製油は報道を引きつつ、国内の猫の飼育数が900万頭前後で推移していることや、飼育されている猫の寿命が10数年といわれ、近年は飼育環境の改善で20年を超えるケースも見られることを挙げている。リリースのほうでも慢性腎臓病は高齢猫で多く見られる疾患のひとつだとしていて、長く生きるほど腎臓の消耗が表に出やすくなるという話だ。猫の体の仕組みの話でいうと、オスの三毛猫が3万匹に1匹しか生まれない理由のような遺伝の話題も過去に書いたけれど、今回は寿命が延びたことで前に出てきたテーマだ。
4月には別の試験も論文になっている
実はこの素材、今年の春にも成果が出ている。ペット栄養学会誌の29巻1号(2026年4月10日発行、p.15-22)に、難消化性大豆タンパク質によるネコの腎臓および下部尿路ケアの可能性という論文が載っていて、著者の所属には不二製油グループ本社株式会社未来創造研究所とある。
こちらは9月の発表とは別の試験だ。健康な猫10頭に7日間、別に健康な猫8頭に30日間与えた内容で、尿素窒素・クレアチニン・SDMAといった指標が基準範囲内を維持したこと、それにアルカリ性に傾いた尿を中性寄りに戻して尿結石ができるリスクを下げることが示唆された、という中身になっている。対象が健康な猫で、見ているのは腎臓に加えて下部尿路。今回の岩手大との7頭の試験とは頭数も期間も対象も違うので、数字を混ぜて読まないほうがいい。
ちなみに表記もソースによって揺れていて、不二製油のリリースは「難消化性大豆たん白」、査読論文は「難消化性大豆タンパク質」。検索するときは両方で当たったほうが早い。
7頭の小さな研究で、まだ商品でもない
盛り上がったところで、ブレーキも正直に書いておく。
まず規模だ。今回の試験の対象は7頭で、しかもそのうち慢性腎臓病なのは5頭。全頭でクレアチニンが下がったという一文だけを切り出すと大発見のように読めるけれど、7頭というのは科学の世界ではかなり小さい。ここから「猫の腎臓病が治る」「これを食べれば腎臓が良くなる」に飛ぶのは早すぎるし、不二製油自身も治療ではなく健康維持への寄与の可能性という言い方を選んでいる。
もうひとつ、今回のリリースは商品の発売告知ではない。あくまでペットフードの素材としての可能性を示した発表なので、今日から店頭でMAM入りのフードを探せるわけではない。日経関西の報道によれば、不二製油は犬向けの開発も進めてペット向けの機能性素材として市場を開拓していく方針だという。素材が採用されたフードが実際に並ぶのは、もう少し先の話になりそうだ。
腎臓の数値が気になっている猫と暮らしているなら、いま動かすべきは検索ではなくかかりつけの獣医への相談のほうだと思う。猫の診察といえば撫でただけでノミの有無を見抜いた獣医の話も書いたけれど、あれもプロの手が届く範囲の話だった。ただ、腸を整えると腎臓が助かるかもしれないという道筋が研究として出てきたのは、素直に面白い。続報は不二製油のニュースリリースに出るはずなので、気になる人は覗いてみてほしい。