猫がいてアロマが使えない人が行き着いた「茶香炉」、元ネタはアロマポット
部屋のにおいがこもる日がある。窓を開けてもいまいち抜けない、あのどんよりした感じだ。ふつうならアロマを焚くか消臭スプレーをひと吹きして終わりなのだけど、猫と暮らしていると、ここから先の選択肢がわりと狭い。
投稿したのは双森 文さん(@fumi_futamori)。9月23日の午前11時すぎの投稿で、その日のうちに1万を超えるいいねがついた。本文はこうだ。「部屋に臭いがこもったとき、猫がいるのでアロマとか消臭スプレーが使えなくて、何か猫がいても使えるものは…と調べたら「茶香炉」なるものを見つけて購入。めっちゃお茶のいい香り〜〜!!すごく癒されるし緑茶は消臭効果もあるらしい。満点!」
添付された写真を見ると仕組みは一目でわかる。白い陶器の器があって、上の皿に白っぽい茎の目立つ茶葉が山盛りになっている。器の窓の中では小さな炎が揺れている。それだけの道具だ。
猫がいると、アロマも消臭スプレーも選びにくい
なぜアロマが候補から外れるのか。猫は精油の成分をうまく代謝できないとされていて、エッセンシャルオイルの扱いには注意がいるという話が、猫を飼っている人のあいだでは広く共有されている。消臭スプレーのほうも、床や家具に残った成分を猫が舐めたり毛づくろいで口に入れたりする経路があるので、同じ理由で敬遠されやすい。
つまり「部屋を良い匂いにする」という、人間ひとり暮らしならワンタッチで済む話が、猫がいるだけで急に難易度の高い課題になる。今回の投稿が刺さっているのは、そこの詰みかたに覚えがある人が多いからだろう。
やることは茶葉を温めるだけ、出がらしでもいい
茶香炉は「ちゃこうろ」と読む。上皿に茶葉をのせて、下からろうそくや電球の熱でじんわり温める。それだけで茶葉を焙じたときのあの香りが立ちのぼる、という道具だ。線香のように茶葉そのものに火をつけるわけではない。
使う茶葉の量は日本茶専門店の解説によると大さじ1杯ほど、あるいはティースプーン1〜2杯程度。ふつうの煎茶でも基本的には問題ないが、長く香らせたいなら茎茶が向いている。「カリガネ」と呼ばれる茎茶を使うと長時間香りを楽しめるとされていて、写真の茶葉も白っぽい茎がしっかり混ざったタイプだ。茎茶は値段も手ごろなので、焚くために買っても財布が痛まない。
もっと安く済ませたい人向けの手もある。飲み終わった出がらしを天日で干すか電子レンジで水分を飛ばせば、それも茶香炉に使える。淹れて飲んで、干して、焚く。1回の茶葉で二度おいしい。茶葉の代わりにコーヒー豆を入れて香りを楽しむやり方もある。
香りだけで気分が変わるのかと思うかもしれないが、鼻から入る情報が体感を左右する例はけっこうある。かき氷のシロップが全部同じ味だという話も、正体は色と香りに脳が引っぱられているというものだった。緑茶の香りが部屋に満ちているだけで「なんか片付いた気がする」と感じるのは、たぶん気のせいではない。
ろうそく式と電気式、火をつけたまま出かけない
写真のタイプはろうそくを使う。雰囲気は圧倒的にこちらが良いのだけど、当然ながら室内に裸火を置くことになる。猫がいる部屋という前提だと、そこはむしろ気をつけたいポイントだ。
実際に事故も起きている。消防防災博物館に載っている神戸市消防局の事例では、平成14年4月にマンションの5階で、茶香炉にろうそくを入れて点火したまま外出したことが原因の火災が発生した。しかもこのときは、こぼれたロウよけにと、ろうそくを入れる下の部分に弁当用のアルミ箔を器の形にして敷いていた。熱を伝えやすいアルミがロウごと温まって蒸発が進み、そこから異常燃焼に移って、流れ出たロウに火がついて燃え広がっている。この件を受けて消防局が製造業者に形の変更を求め、製品のほうは蓋のつまみをなくして熱がこもらないよう開口部を広げた形に改良されている。そのうえで記事が結んでいるのは、一番大事なのは火をつけたままその場を離れたり寝たりしないことだ、という一点だ。
その点を回避したいなら電気式がある。ろうそくではなく電球の熱で茶葉を温める方式で、検索でも「茶香炉 電気」はよく打たれている語だ。火を使わないぶん、外出や就寝と相性がいい。留守番中の猫が裸火のそばをうろつく心配もない。お茶そのものの話をもっと知りたければ、日本茶インストラクター協会のサイトが入口として分かりやすい。
元ネタはアロマポット、生まれたのは1997年
ここまで読むと、茶香炉はさぞ昔から日本の家にあった道具に思える。陶器で、お茶を焚いて、名前に「香炉」まで付いている。ところが実際は違う。
茶香炉が世に出たのは1997年。愛知県半田市に本社を置く愛知化学陶磁器が、アロマテラピーで使うアロマポットにヒントを得て商品化したのが最初だ。その後2001年に全国地場産業優秀技術・製品表彰の最優秀賞「中小企業庁長官賞(地場産大賞)」を獲り、そこから各地でいろいろな茶香炉が作られるようになった。つまり平成生まれの、けっこう新しい商品である。
アロマポットとの違いは温度で、茶香炉のほうが高い温度で焚く。だから茶葉が焙じられて、あの香りになる。焚き終わった茶葉はほうじ茶として飲むこともできる。
ここで話が一周する。猫がいてアロマが使えないから何か別の手はないかと探した先にあった道具が、そもそもアロマポットを見て作られたものだった。アロマを避けて歩いてきたら、アロマの親戚の前に出た形だ。狙って着地したわけではないのに、いちばんきれいなところに落ちている。
香りで部屋の空気を変える手段はいろいろあって、ランドリンの柔軟剤がミルクティーの香りを出してきた話のように、毎年どこかで新しいものが出てくる。ただ茶香炉に関しては、必要なものが器と茶葉だけというのが強い。戸棚の奥で賞味期限が近づいている茶葉があるなら、飲む以外の使い道がひとつ増えたと思っておくといい。