「原作読んだら全然笑えないシーンだった」とは?ライナーのコラの元ネタと本当のセリフ
タイムラインに流れてきたコラ画像に「原作読んだら全然笑えないシーンだった」と添えられている。さんざんネタとして貼られてきた画像が、出典にあたるとまったく笑える話ではなかった、という報告です。そしてこのフレーズの面白いところは、定型として使われるコラ画像そのものが、本当に笑えない場面のコマでできている点にあります。
「全然笑えないシーンだった」とは?
ネット上で面白おかしく使われている画像やセリフが、原作ではシリアスな場面だったと気づいたときに言うセリフです。ニコニコ大百科にも pixiv 百科事典にも単語記事があり、見出し語はそれぞれ 「原作読んだら全然笑えないシーンだった」、「原作を読んだら全然笑えないシーンだった」です。実際の投稿でもこの長いままの形で貼られることが多く、短く「全然笑えないシーンだった」だけで使われることもあります。
ミームというのは、だいたい文脈を剥がすことで成立します。コマ1枚、セリフ1行を切り出して、元が何の話だったかは誰も気にしないまま回していく。そこにたまたま原作を読んだ人が現れて「いや、これそういう話じゃなかったんだが」と戻ってくる。その報告に付ける定型文がこれです。
だから意味としては単純なのに、使われる場面はいつも同じ形をしています。長く笑いに使われた画像ほど落差が大きくなるので、刺さり方も強い。「ネタにしてすまん」に近いニュアンスが混ざることもあります。
元ネタ・由来
2022年頃から、『進撃の巨人』の ライナー・ブラウン のコラ画像とともにSNSで使われるようになったとされます。食卓に着いたライナーのコマに、この一文を載せた形です。
ここが最大のポイントで、ライナーは原作でこのセリフを言っていません。コラのために文字を差し替えたものです。
同じコマの本当のセリフは 「そこにいた日々はまさに地獄だった」。単行本23巻の第94話「壁の中の少年」で、マーレの故郷に戻ったライナーが家族や親戚と食卓を囲みながら、パラディ島での日々を語る場面です。
流れも笑えるものではありません。ライナーは「島の連中はまさしく悪魔で残虐非道な奴らだったよ」と言いながら、入隊式の最中に芋を食い始めた奴、自分のことしか考えてねぇ不真面目な奴、人のことばかり考えてるクソ真面目な奴と、明らかに人間味のあるエピソードばかりを並べていきます。「色んな奴らがいてそこに俺達もいた」まで言ったあとに出てくるのがこの一言で、悪魔の話を聞かされていたはずの家族は意味が取れず、場が静まり返ります。ライナーは「…少し話しすぎた この話は忘れてくれ」と引っ込めます。
つまり、「全然笑えないシーンだった」と書いたコラが、実際に全然笑えないシーンのコマを使っている。この二重構造がフレーズの座りの良さを作っていて、素材として選ばれ続けている理由でもあります。何かを言い終えたあとの、感情の読み取りにくい顔なので、どんなネタに被せても収まってしまう。
ちなみにこの場面は漫画版とアニメ版で描写が違います。漫画版は、会ったこともない島の住民を罵る母親にライナーが苛立ちを抑えきれず遠回しに嫌味を言う場面ですが、アニメ版では兵士と戦士の境目が消えかけていた頃のように、本当に様子がおかしくなっている演出になっています。ニコニコ大百科の記事でも「アニメ版は笑っても仕方ない演出」と書かれているほどで、笑えるか笑えないかの線はそこそこ曖昧です。
そもそも『進撃の巨人』は、シリアスな作品でありながらコマ単位でネタにされてきた作品です。エレンの「そういう時期」だってもとは重い場面のセリフで、ネットで散々いじられた末に進撃の巨人カフェが「そういう時期」をテーマに開催するところまで行きました。ネタにされる側の総本山みたいな立ち位置なので、このフレーズの素材に選ばれたのも順当ではあります。作品としての勢いは今も続いていて、9月9日が「進撃の巨人の日」に正式制定されています。
原作を読むと笑えなくなる代表例
フレーズの説明だけだと実感が湧かないので、実際に「読んだら笑えなくなる」で名前が挙がる2つを出しておきます。どちらも単体のセリフとしては完全にギャグとして流通しているものです。
「おかわりもいいぞ!」
徳弘正也『狂四郎2030』の第39話「シティからの罠でござる」(単行本5巻)に出てくるセリフです。ネットでは山盛りの飯の画像に添える、気前のいい一言として使われています。
原作は主人公・廻狂四郎が少年時代を過ごした少年兵の育成施設が舞台で、成績の悪い子どもにはわずかな食事しか与えられませんでした。成績が悪かった宇治田は常に空腹で、狂四郎たちに食事を分けてもらって生きている状態です。その日は成績に関係なく全員にカレーが振る舞われ、宇治田がおそるおそる差し出したおかわりの皿にも、教官が「遠慮するな 今までの分食え…」と応じます。
食べ終わった直後に教官たちがガスマスクを着け、「ただ今より毒ガス訓練を開始する!!」。通風孔から嘔吐ガスが流れ込み、「ただし…いやしく腹いっぱい食った奴ほど苦痛は続く!!」の言葉どおりの地獄になります。訓練が終わったとき、宇治田は息絶えていました。
腹いっぱい食べさせてから始める訓練なので、あの気前の良さ自体が仕掛けだった、という構造です。セリフだけ切り出すと優しい教官にしか見えないのが、いちばん質が悪い。
「わ わかんないっピ…」
タイザン5『タコピーの原罪』の第11話「日本縦断しずかツアー」です。ネットでは、出せるわけがないものを要求されたときの困り顔の返しとして定着しています。
原作では、連れ去られた飼い犬のチャッピーを探して、しずかが東京にいる父を訪ねる場面。たどり着いた父のマンションには、別の子ども2人と別の犬がいて、その子たちに「なんでお父さんのこと『お父さん』って呼ぶの?」と聞かれた父は、しずかの目の前で「よくわからないなぁ…」と答えてしまいます。
その帰り、雨降りの道路下のトンネルで、しずかは「あの子供たちがチャッピーを食べちゃったのかも」と言い出し、タコピーに「人間をつかまえて胃の中を調べる道具」を出せと要求します。それに対して、地面に散らばったハッピー道具を前に涙を浮かべて返すのがこの一言です。
直後に「そんな道具はないっピ」と続くので、道具を知らないという意味にも取れるし、しずかが何を言っているのか理解できない、という意味にも取れる。ネタとして貼られている画像の涙は、本来そういう涙でした。この作品からはタコピー鬼つええ!のような別方向のミームも生まれていて、切り出され方の幅がかなり広い作品でもあります。
使い方・例文
使い方はほぼ1パターンで、ネタ画像とセットで投げるか、原作を読んだ報告として単体で置くかのどちらかです。
- 「このコラずっと笑ってたけど原作読んだら全然笑えないシーンだった」
- 「軽率にスタンプにしてたやつ、全然笑えないシーンだった」
- 「教えてもらって読んだら全然笑えないシーンだったので反省してます」
注意点がひとつあります。このフレーズはほぼ必ずネタバレを連れてきます。「笑えない」と言った時点で重い展開があることは伝わってしまうので、連載中の作品や未読の人が多い作品に使うときは、作品名を出すかどうかを含めて一呼吸置いたほうが無難です。
それと、このフレーズは原作へのリスペクトを示す言い方であって、ネタにしてきた側を責める言葉ではありません。使う側が説教の方向に振ると一気に面倒になるので、素直に「知らなかった」の温度で使うのがちょうどいい。
関連する言葉
元の画像に別の文字を載せる手法そのものはクソコラで、ライナーのこれも技術的にはその一種です。ただしクソコラが「笑わせるために加工する」ものであるのに対して、このフレーズのコラは「笑っていたことを取り消す」ために作られている。方向が逆になっているのが面白いところです。
同じ『進撃の巨人』由来ではそういう時期が代表格で、こちらは作中の実セリフがそのままミームになった例です。実セリフが独り歩きした「そういう時期」と、セリフを差し替えたうえで「原作は笑えない」と言う今回のフレーズは、ネタにされる側とネタにする側のちょうど両端に立っています。
原作の文脈と、ネットでの受け取られ方がずれていく現象という意味では解釈違いとも地続きです。ミームをどれだけ知っているかを遊びに落とし込んだものとしては、「ぬるぽ」に「ガッ」で返す「ミームかるた」も出ています。元ネタを知らないまま札だけ覚えている状態は、ちょうどこのフレーズの一歩手前にあたります。